頑固系OLのおっとりな本棚

頑固な思考から解放してくれるような本との出会いをマイペースに紹介

『メガリスク時代の「日本再生」戦略』

物価上昇が著しい。

12月くらいまでリーズナブルだったみんな電力からの請求も、ヒーターを使いだしてから少しずつ上がり、4月からは1.5倍くらいの単価になるとのこと。

一方で九州では太陽光の出力抑制(電気が余っているので発電をしないように指令が出される)がまだ3月なのに始まってしまった。電気が足りないんだか余っているんだか。

 

この本は分散型エネルギーを活用した日本再建がテーマ。新型コロナの問題も扱われているとのことで、エネルギー政策とどこに関係にあるのか…と不思議に思っていた。

出版されてから日は経っているが、エネルギー危機にある今こそ読んでおきたいテーマ。

次々に暴かれる日本社会の闇に失望感がのしかかるが、各地域の実践例たちがこっちへおいでと優しく未来を照らし手を引いてくれるような、そんな金子先生ワールド全開なところがお気に入りの1冊。

 

テーマとなっているのは、リスクに備えられる日本に変える提案。日本がトラブルに巻き込まれた際にこれまで取ってきた対応は根本的解決に至っておらず、その原因としてリスクへの備えられる分散型社会の構築が遅れていることが指摘されている。

リスク対応については、まずは問題の規模や本質をきちんと把握し、リスクを見極め、一気に処置することが不可欠。例えば、コロナへの対応では、まず検査を中途半端にせず広く徹底的に行い、隔離を徹底するとともに、治療法を確立していくこと。これを短期間で行う。緊急事態宣言を下したり解除したりを繰り返しても、根本的な解決にならず、影響が長期化する。日本ではこのような対処療法的政策がとられることが多く、に、バブル崩壊時の不良債権問題や、福島第一原子力発電所事故の廃炉の際など幾度となく失敗を繰り返している。

 

では今後日本がきちんとリスクに対応できる社会にするにはどうするべきか。この本のメッセージとして大事だと思うのが、リスクとは何かについて、もっと本質的にとらえる必要があるということだと思う。

例えば、エネルギー政策では太陽光や風力発電は「変動電源」であり、エネルギー不足のリスクが生じる可能性が高いものとされ、火力や原発の有用性が取りだたされる。しかし、火力や原発は一極集中型の電源であり、1つの発電所がダメになると、一気に広い範囲に大規模な影響が及ぶ。一方で、再エネは基本的に小規模分散型なので、どこかがダメになっても影響は狭い。変動型でも多様な気候の地域に分散して作れば補完しあえる。「変動」であることをリスクととらえることはやめ、集中型の構造を変えなければならない。

経済の観点からみて、これまでの開発や産業集積などの集中メインフレーム型の構造は、人口が増え、内需が拡大し続け、輸出が増えている状況下では経済活性化に大きく寄与してきた。しかし、人口が減少ししている現在には当てはまらなくなってきている。そういった意味でも分散型に切り替えるべき時期はコロナ前から来ていたといえる。

 

もう一つ重要な観点はガバナンス。情報の透明性を確保し、市民が自ら社会の在り方とエネルギー政策を決める。原発問題をはじめ、利権が多くはびこる中で、問題の根本的解決に舵を切るために欠かせない。

この本では「ご当地エネルギー」と呼んでいるが、地域コミュニティが作った発電プロジェクトや電力会社が中心となり再エネを作っていく運動が、日本のリスクへの備えにつながり、地域の自治力や経済活性化の一助となり得る。

 

ご当地エネルギーを始めて継続するのも結構大変なことだろうなと思うが、金子先生も飯田先生も、これまで多くの地域でご当地エネルギーづくりに取り組んでこられた実績をお持ちで、紹介されているプロセスはとても勉強になる。自治体や市民の理解を得てどこまで巻き込めるかというのはかなり難しいところだが、長い目で地道に取り組む方が効果がありそうだなと思う。ただ、時代の流れが激しいので、取り組み始めるのに待ったなしという印象。

併せて、個人ですぐに取り組めることも提案されていて、たとえば市民と自治体が旧一電の筆頭株主になることで、大きな組織で再エネへの転換を実現しようという筆頭株主運動に参加することが提案されていた。今までデカい組織VS地域・市民ととらえがちだったが、でかい組織を味方に付けようとは…大胆な発想で面白そう。こういう発想の転換を私も常に心掛けたい。やっぱり明るい未来を感じながら本を閉じたい。