頑固系OLのおっとりな本棚

頑固な思考から解放してくれるような本との出会いをマイペースに紹介

「温かいテクノロジー」が照らす未来をのぞいてみた

久しぶりにブログ編集ページを開くと「AIタイトルアシスト」たるタブがお出まし。

いつからこんなんあった?なんでも本文作ると内容に合わせてタイトルを作ってくれるのだとか…採用するかどうかは最後のお楽しみ。(結果:広告みたいな言い回しだったので不採用に)

 

最近Excelで関数を組みたいときはもっぱらChatGPTに頼っているが、さすがに何も知らずにAIをこき使うのはいかがなものかと思い、文系にもわかりそうな本を買ってみた。これが大当たりだったのでシェアしたい。

■AI搭載型「温かい」ロボットの開発者のエッセイ

子どもやペットがいないご家庭の新たな家族として注目を浴びている「LOVOT(ラボット)」をご存じだろうか。一般的にイメージするロボットと異なり、触ると温かく、愛くるしい動きとコミュニケーションで周囲との温かな関係を構築ことができるAIロボットである。著者がなぜLOVOTを開発するにいたったのか、周囲のAIに対する期待や不安にどう答えていくか、エンジニアの熱意と苦悩が垣間見えるエッセイとなっている。AIの特徴が分かりやすいだけでなく、自分自身の生き方やAIとの共存についてとても考えさせられた。

 

■なぜ温かいテクノロジーなのか

AIを作るというと、計算が早くできるようになったり、大量のデータから何かを取り出したり、人間にはできないことをできるようにプログラムを組むものというイメージを持っている人が多いと思う。そこには生命としての人間とは重なるところがほとんどなく、「温かさ」が入る余地はなさそうに思える。AIというと生産性向上のために開発されるのが多い中で、家族としてロボットを迎え入れるなど一部のもの好きがすることと思っていた。「それってなんの役に立つんですか」とコメントする投資家がいるのもわかる気がする。雇用を奪われるのではないかといったAIに対する漠然とした不安も私の中にあった。

しかし、著者は「温かい」テクノロジーを実現させることにこだわっている。生産性だけが人類を幸せにするのではない。人類が将来への不安を取り除き、誰もが自分らしく、存在意義を見失わずに幸せに生きるためには、失敗を恐れず挑戦することでやればできるんだと実感できることが重要。そのサポート役ができるAI、すなわちこれまでのAIのように冷静さや完璧さを追求したものではなく、自然体でどこか弱さもあり、人間のやさしさや気づきを引き出す「温かさ」を持ったAIの開発を著者は目指している。

 

■AIを開発することは人間のメカニズムを探ることと表裏一体

著者はLOVOTを温かいロボットにするために、「愛とは何か?」「感情とは何か?」「生命とは何か?」「社会とは何か?」「多様性とは何か?」「幸せとは何か?」と、一見哲学的にも思える壮大なテーマを分析を行っている。著者の分析を見れば、確かに温かいテクノロジーは人間の将来への不安をぬぐい、幸せな社会にしてくれそうと感じさせられる。

心理学をはじめとする専門家の意見も踏まえた著者の考察は、サブタイトル通り私たちを知的冒険にいざなってくれる。どれもおもしろかったが、例えば「命とは思い入れである」「感情とは相手の反応を見た自分の主観」というように、人間の思考や感情、判断について、どうしてそのように進化したのかを分析されていてかなりアハ体験だった。このプロセスにおいてはメカニズム的にとらえるのが憚られる部分があるので「冷たさ」を感じることもあるが、対話で違和感のないロボットを作るには人間のメカニズムが重要なんだとわかる。それと、ドラえもんは人間界にいても自然体で、のび太に何かを押し付けるわけでもなく気付きを与えてくれるところがAIとしてとても優秀であることもよくわかった。

 

■メカニズムがわかると不安は期待になる

「AIに職を奪われるのでは?」「こんな機能のためになぜここまでコストをかけるのか?」― 現在多くの投資家や消費者が持つAIへの期待や不安は、「温かい」テクノロジーを実現を妨げかねない。著者が言う通り、失敗を恐れず信じて前に進む社会がいいなと思うし(自分もそうありたいと思った)、一歩踏み出す自信を持つためには、物事の本質やメカニズムを丁寧に分析していくことが大事だと痛感した。この本はその分析するプロセスの面白さも伝えてくれている。そんな骨の折れる分析を通して著者はAIと人類が共存する方向性を提示している。ぜひ多くの人に読んでもらいたい。

みんなの素朴な疑問に丁寧に答えていく著者の謙虚な姿勢や、良い社会にしたいという熱意とやさしさがにじみ出た「温かい」エッセイだった。困ったことにLOVOTが欲しくなってしまった…(1体50万円)