頑固系OLのおっとりな本棚

頑固な思考から解放してくれるような本との出会いをマイペースに紹介

なぜ企業は農業に参入するのか…確かに。

「牛乳を注ぐ女」で有名な井上涼さんの「玉虫の家庭教師が玉虫厨子」という曲がテレビで流れていて、あんまりにも可愛いのでフクフク笑いながら見た。

2回も流してくれて、さすがNHK、よくわかってんなー。

 

--------------------------------------------------------------------------------------------------

本日は、農林統計出版「なぜ企業は農業に参入するのか」渋谷住男編著を読んだ感想を少しだけ書き留めておく。

データが充実していて助かる。

 

本題に入る前に、企業参入に関する規制がどんな風に変遷してきたのかなど、政策について説明から始まる。以下、要点。

 

●1960~70年代は、家族経営を発展させる、耕作者の権利を守るための法律。1980年代以降、担い手不足や遊休農地の問題を受け、少しずつ企業が農業に参入できるよう法改正が行われてきた。

●2000代からは、農地リース制度が設けられ、企業が貸借による農地取得権利が認められるようになり、ぐんぐんと企業参入が進む。

 

企業参入は、農地の所有権の有無と農作業を実際に企業がするのかどうかの2つの要件から、4つのタイプに分けられるという説明が超絶わかりやすかった。ありがとうございます。

 

その後、衝撃のデータがお披露目される。

なんと、企業は農業に参入したものの、その多くは農業部門単体では黒字にならないらしい。

 

実際、参入企業の3割しか黒字になってないみたいだし、多くの企業は参入から5年くらいたたないと黒字にならないようだ。

 

えぇ…そうだとすれば本当に題名通り、「なぜ企業は農業に参入するのか」という疑問が出てくる。

 

著者は「効用の発現」と呼んでいた(これ普通の表現なのか?)が、参入することで本業にいい影響がもたらされるという理由で、赤字覚悟で参入する企業があるという。

 

本業にいい影響とは、例えば建設業なら、冬期に仕事が集中しがちなので、夏場に米を栽培することで、従業員を周年で雇い続けることができるとか、食品加工業者なら、安定した原料調達ができるとか、業種によって様々である。1つ一つの業界について各章でどんな効果がでているかを分析している。

 

耕作放棄地の削減などの地域貢献によって企業イメージUPを図ることも企業の効用であるとも書いていた。確かに、CSRへの取り組みは今や標準的なものになりつつあるが、統計上では売上のように定量的に測ることができないので、掲載されたデータは主観的なものに過ぎない点に注意が必要だ。

 

最後には、行政やJAを含むステークホルダーがどのように対応すべきかについても書かれていた。

 

どの分野でもよくあることだが、一般企業がやりたいことと行政が企業に期待することには乖離がある。例えば、耕作放棄地をたくさん減らしたい行政は、企業に大規模な農業をやってほしいと思っている一方で、参入企業は本業ではないため中小規模の農地から始めることが多く、8割ほどが5ha未満の農地しか使っていないのが現状だという。

 

行政は企業に過度な期待を寄せて支援の対象を絞るのではなく、多様な企業に参入してもらえるようインセンティブ政策を設定すべきというのが著者の考えだ。そのために、行政は農水部門だけで(つまり縦割りで)対応するのではなく、福祉や教育など別の分野を担当する部局の人と一緒に支援内容を考えることで、農福連携に取り組みたい企業など、さまざまなタイプの企業参入を促すことができるかもしれない。

 

私もこの意見に大賛成である。

確かに、同じような規模・作物・業種の企業参入を進めた方が行政コストは浮くが、景気の動向によって突然たくさんの企業が同時に撤退するなど、偏った企業誘致にはリスクがはらむからだ。

 

メディアが大企業のICTを用いた農業参入ばかりを報道するから、企業参入による農地保全にはいろんな課題があることを知らなかった。農業の文献は知らないことがたくさんあって読みごたえがある。