ダスグプタレビューのレビュー(低レベル編)
農業・農村政策の分野で著名な小田切徳美先生の今年出版されたばかりの著書を読んだんだけど、今までの小田切先生の主張をぎゅっとまとめたような内容になっていて大変勉強になった。
産業政策の影に隠れてしまった暮らしの政策(農村政策)をどう改善していくべきか。こんな視点での議論がもっと認知されればいいなと思った。
農業や農村に対する誤解や偏見は多いから、都市農村交流は今後もすごく大事だと思う。
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さて、4・5月のゼミで読んだ「The Economics of Biodiversity The Dasgupta Review」について感想を書き留める。
このレポートは、英国政府がダスグプタに委託して作成したレポートで、全部で約600ページある。
しかし、要約バージョン(100ページ)がよくできているということで、教授が紹介してくれたのだ。
実は、このレポートが出たばかりのころ、日経新聞でこのレポートについてのコラムが掲載されていて気になっていたから、ちょうどよかった。
生物多様性の本質とそれにまつわる経済学の議論をまとめたような感じ。
書いてあることはそれほど目新しいものではないものの、このレポートを読むだけで生物多様性にかかわる経済学の概要が把握できそうなほどまとめられていて、これまた勉強になった。
全体を通して強調されていることは、豊かさとは何かということである。
これまで世界はとにかく経済的成長を追い求めてきた。物的豊かさを向上させるため、たくさん物を作ったり、そのために設備を買ったり…
これらの富は、GDPで測られてきた。そして、GDPが伸びるほど、成功している国だというのが世界の認識だった。経済学的に言えば、Produced Capitalという資本のフローが重視されてきたということだ。
しかし、そうした物的豊かさを得るために、われわれは実に多くのものを犠牲にしてきた。時に途上国の人々の健康を奪い、時に自然を破壊してきた。
果たしてこのような社会は本当に豊かだといえるのだろうか。GDPが伸びることだけが重要なのだろうか。
そんな疑問から、経済学者らは資本の概念を拡張した。資本の概念に人的資本(Human Capital)と自然資本(Natural Capital)を加えたのだ。
さらに、フローだけでなくストックにも注目する。 人的資本があるからこそ、自然資本があるからこそ、Produced Capitalを蓄積できる。一度壊れると元に戻れない、自然の性質も加味することになる。
これまで、生物多様性が提供してくれるサービス(空気とか、天然資源とか)には価格がつけられてこなかった。無料だから、無限にあるものと錯覚してしまい、過剰利用されてきた。生物多様性のわかりづらさから、人間は無意識のうちにそれを破壊してきた。
価格付けは、こうした自然が人間の活動に与える影響やその存在価値を可視化し、過剰利用を抑制したり、保護活動を促したりするのに役立つ。そして、自然や人権が守られているかどうかの情報も含めた、人々の本当の豊かさを測定することもできる。
地域レベルの取組の重要性やコミュニティで取り組む意義、環境教育を強化する必要性なども語られている。この部分に関しては多くの人が共感するはず。
ただ、やっぱり生物多様性の問題は他の問題に比べてかなりわかりづらいなと思う。生態系はつながっているんだから、どっこも壊しちゃいけない、という主張もあり得る。一方で、人間の生活を全部犠牲にして全部の生物を守る必要があるのか、という意見ももっともだ。
さらに言えば、人間の経済活動と自然環境のトレードオフだけではなくて自然環境保護活動のトレードオフもあるように思える。このレポートで取り上げられていた例で言えば、ゴミ問題の解決のための生分解性プラスチックを使った農業用マルチが注目されているが、土の中で分解されるといえ、土の中の生態系を変えてしまうことには変わりないという反対意見もあるようだ。
いったいどこまで生物多様性を気にかけるべきなのか…ますますわからなくなる。
教授は、理想の地球にするためには膨大な費用もかかり、国民的合意がとれないため、生態系サービスが人間にもたらす部分だけを価格付けをして守っていく必要があると言っていた。公害問題の「最適汚染水準」の議論と似ている。(経済学のこういうところ好きなんだなあ、合理的な妥協点を探るっていう感じ?)
生物多様性のどの部分が人間の暮らしに影響を与えるのか、そしてそれをどのように評価するのか。技術的課題は多い。
レポートは基本的に発展途上国を念頭に書かれており、ダスグプタのすべての提案を日本に直輸入するのは望ましくない。
しかし、成長なしに豊かさは得られないという考え方を長年にわたって日本政府から植え付けられてきた市民に、発展のあり方を問い直すよう訴えるレポートであることは間違いない。
誰か英語のできる人が翻訳版を作ってくれたらなぁ…(わしはやらんぞ)。